妖勾伝











鈴が鳴る様な、
可憐な声ーーー




突如割り入ってきた影に、ピンと張り詰めていたレンの気持ちが一気に弾けた。












「紫…乃…ーー」









その瞳に浮かんだ、大粒の泪。

今や化け猫を断ち斬ろうとしているレンを制そうと、凛と見上げている。








「退くんだ、
紫乃ーーー!」



絡む視線に熱を込め、レンは大きくそう叫んだのだった。













レン自身でもわかった、太刀への迷い。


このまま化け猫を斬れば、傍で制する紫乃も危ない。




ーーーだが、

今、
討たねば…








迷いに揺れる、レンの刃先。


薄暗く澱む闇に、
はっきりと浮かんだ。










「レン!
危ない!」







アヤの、
聡明な声ーーー

駆け寄る姿。



化け猫の四肢が、大きく唸りをあげた。




一瞬逸れたレンの隙を付き、二人を庇うアヤの背後から重々しくそれはふるわれたのだった。














「キャァーー!」







ゆっくりと、乾いた地面に落ちてゆくアヤ。



舞落ちる、一葉の様。




結わえてあったアヤの長い髪が、化け猫の鋭い鈎爪を掠り、ハラハラと闇に散っていった。



「アヤぁーーー!!」














見境を無くした、
闇の亡者。


間髪入れず勢いを強め、更にふるわれた化け猫の四肢は、傍に居た紫乃ごとレンを弾き飛ばしたのだった。