妖勾伝

クククと、
闇に笑む化け猫。

うなだれ頬を濡らす珀を、チラリと見やる。




何もかもを愚弄した態度、その言葉ーーー

怒りの頂点に沸いたレンは、闇夜に脈々と蠢く化け猫に向かい、荒く云い放った。










「許さん…



心無き、
そのぬしの魂。

わちが必ず、葬りさる……」













ゆっくりと閉じられる、レンの瞳。

長い睫が薄闇にもはっきりと分かるくらい、その滑らかな頬に濃い影をつくる。




纏う気配がユラリと泡立ち、揺らめく紅い炎がレンを包んだーーー















両の手に握られた二つの太刀から、足元に向かって滴れ落ちる飛沫。

瞬に振り払われた太刀は主人を見定める様、弧を描いてレンに寄り添う。





息を小さく整え、瞼を開けると、

上段に構えた太刀から伏せていた長い睫に、キラリと雫が跳ねた。








「参るーーー」





















先程とは打って変わってのレンの重たい太刀さばきに、化け猫は焦りを声に滲ませた。




「ウグゥゥゥッーーーーー…」











急所を的確に突いてくる、鋭い刃先。


化け猫は、思いあまって巨駆を捩らせた。