妖勾伝







「こうして珀といると、
心が安らぐ。」





柔らかく敷き詰められた白と緑の絨毯に寝そべりながら、珀を見つめ微笑む翠人。



心地良く吹く春風が、翠人の鼻先に向かって落ちる前髪を、フワリと誘う。


そんな戯れる春風をゆっくりと仰ぎながら、傍に寄り添う珀の頬を、その柔らかい掌で愛おしそうに一撫でした。








翠人の仕草一つ一つが、優しさに満ち溢れている。

温かな掌ーー


その優しさを受け取るように、珀は自身の掌をソッと重ね合わせた。








「私もだよ……」








この先、

ずっと続く、永遠の幸せ。







孤独だったあの頃には、想像できなかった自身の姿に、珀はフッと頬を緩める。






「ととさまぁ、

かかさまぁ!」





ちぎれんばかりにこちらに小さな掌を振っている幼い影は、二冬前に産んだ紫乃だ。

人のいう処で、十になった頃だろうか。


寄り添う二人の目の前で白い蝶を追いかけながら、楽しそうにハシャいでいる。



翠人と紫乃が、
こうして傍にいて……










すべてが、
幸せに包まれていたーーー








「珀……」




返り見た、愛おしいその瞳。

温かな陽差しを受けた緑の絨毯に反射して、グルリと色を変えて見える。

綺麗な緑に縁取られた、翠人の瞳。


引き寄せられる感覚に、珀はソッと躰を委ねた。