妖勾伝

「憎い…
ーー憎いんだ。

翠人を殺めた輩が、
私は憎くて堪らないよ…」






呪詛ーー



珀が吐き出す言葉は、凝り固まった痼りの様に堅く闇に覆われている。

吐き出せば吐き出す程刺々しさを増し、落ちた闇の深さが伺えた。




「翠人は…
心根の優しい、良い男だったんだ。

幼い頃から、人離れした能力を持っているというだけで、
親からも見離されて、蔑まれ育ってきた私を、正面から受け入れてくれた優しい人…


そんな、
優しい翠人を……



気ままに弄ばれ、命を絶たれた者の気持ちが、お前達にわかるか?」






揺らぐ怨の炎は、珀の魂と共に一段と激しさを増す。



何ともいえない、
その鈍い光ーー

それは、曲々しく歪み、
珀の魂を漆黒の闇に染め上げ包み込む。

闇に落ちた者達が暗に放つ、輝きだった。








「珀…」


珀の放つ気迫に圧され、レンは思わず言葉を詰まらせた。






「だが、珀…

たとえどんな理由があろうとも、
お前達がその命を奪ってもいいという、権限はないんだよ。」




そんな、
怒りでたぎらせる珀を優しく癒やす様に、
アヤの澄んだ声音が、辺りに広がる澱んだ薄闇をソッと震わせたのだった。