妖勾伝



「おかしいと思ったんだ。
そんな事を云う姐さんの店に、何故コネコがこうしているのかとね…

奥から出てこない大将の事を考えると、
仕事熱心な人か、その逆か…
前者なら、茶店に猫を置いておくハズは
ーーー無い。


どちらにせよ、
あの話しぶりからして、姐さんは明らかに猫を敬遠していた。

その存在が見えていないかの様に、
茶店で遊ぶコネコには、全く気付いていなかったみたいだし。」








納得しない幼子を言い含めるように、アヤは珀に言葉を繋ぐ。




「多発する、首斬り話。

老婆の息子、翠人の死……


そして、

『猫』とこの古屋敷を結びあわせる、香の匂い。


十中八九、
この屋敷に存在するモノは、闇に繋がっているんだろうとね……」








レンはハッとした様に、その顔を上げた。






ーーーそうだ…




ずっと記憶の奥底に引っかかっていた、この漂う香の匂い。

どこで、嗅いだのかを。





そうーーー



それは、


川面に映えいさぶる、彼岸花の朱の色。

神月に負わされた傷を癒やす為、沢の冷水を浸してたぐしてくれたアヤの帯から漂った匂い。


きっと、
コネコを抱いた時に、その匂いが移ったのだろう。










アヤの的確に組まれた話しを訊きながら、珀の苦々しげな表情を見ると、掻い摘んであるがほぼ流れはあっていたんだろう。

恨めしそうに、
妖艶な眼差しが、グラリと歪んだ。