29日。

待ち合わせのベンチで待っていた。
すると、目の前にバイクが1台。

「愛希ちゃん?」

その声は篤志さんだった。

「はい!」
そう言うと、篤志さんは、よかったー、
と一息ついてバイクから降りた。

少しベンチで話して、
「夜景、行こうか!」と篤志さんは
わたしに言った。

周りを見ると、もう空は暗く
こんなに時間が早く過ぎたのは
初めてだと感じた。


わたしは篤志さんのバイクの後ろに乗り
学校の少し上まで登ったところの
夜景まで連れてってくれた。

「うわ、すごっ!!
めっちゃきれい!」

夜景は、ほんとにきれいだった。

「ここ、俺のすきな場所。
愛希ちゃんにも見せたかった」

篤志さんは、そう言うと
近くの自販機で買ったジュースを
わたしにくれた。

5月後半とは言え、山の上だし
20時くらいだったので、冷え込み、
わたしは結構寒いと感じていた。

篤志さんはそれに気づいたのか、
足湯に連れてってくれた。

足湯には誰もいなく、わたしたち
2人だけだった。

足湯に浸かっていると、
篤志さんは、向い側に座って
わたしにお湯をかけてきた。

「うわっ!」

わたしが驚いていると、
篤志さんは少年みたいな無邪気な
笑顔でこちらをみている。

わたしも負けじとお湯をかける。

そうしてるうちに、2人とも
びちゃびちゃになっていた。

「愛希ちゃん、かけすぎ!
鬼寒いわ!」
「いや、篤志さんもなかなか!」

わたしがもう一度お湯を
かけようとすると、篤志さんは
わたしを包み込むように抱きしめた。

「...っえ?」

わたしはわけもわからず、
篤志さんを見上げた。

「愛希ちゃん、じゃなくて、
愛希、好き。」

篤志さんはそう言って
強く抱きしめてくれた。


「わたしは...
前にもメールで言いましたけど、
クラスの子が好きなんです」

そんなことを口にしているけど、
本当は篤志さんも気になっていて
前田くんのことは、8割諦めていた。

だから、篤志さんの言葉が
すごく嬉しかった。


「そうやんな、でも俺まってる。」

そう言うと、篤志さんは、手を離して
帰ろうか、と一言言って足湯から出た。

なんか、気まずいなぁ。
バイクに乗っている時、ずっと
思っていた。


そして、びちゃびちゃの服のせいで
わたしと篤志さんは風邪をひいた。

6月に入っても、まだ連絡をとっていて
篤志さんがまだわたしのことを
好いてくれているらしく、
とうとう付き合った。

わたしも、前田くんのことは
もう諦めよう、と思い、
思い切って篤志さんに思いをつたえた。