父はあっさりと不倫を認め、あの子供は実の息子であの家族も養っていたことも近い家の方が不倫に困らないと思い、あの家に住ませていたことも白状した。母は黙っていた。私はもうその男を父だなんて思っていなかった。
結局あっさりと離婚し、私と母は家を出ることにした。私はいじめが終わらない学校にも未練はないしさっさとどこか違う土地へ行きたかった。
今の家をあの家族へ譲ることになった。私の部屋はあの男の子、スグルの部屋になるんだろう。そう考えるとイライラしてたまらなくて。私がいた痕跡を柱に残した。
『杉野かなえ』
しっかりと名前を彫り、荷物をまとめ母の実家がある東京へ旅だった。杉野かなえは明日から山本かなえになる。この悔しさと情けなさで押し潰されそうだった。
誰もが羨むこの家庭はいとも簡単に崩壊した。私と母の荷物が一つもない家を探索して涙が溢れた。大好きだった父は知らない家庭で良い父をしている。悔しくて悔しくて仕方がなかった。泣きながら『杉野かなえ』の文字をなぞり家を飛び出した。
中学一年の夏だった。