「ひなちゃんが部屋に入れてくれたのよ」


長い前髪をかき上げながら、上目づかいを向ける美樹。


フザけんなと思いながら、テーブルを見ると


そこにヒナがお気に入りのエプロンと、合い鍵が置かれてあった。


「てか アイツは?」


「出て行ったわ」


テーブルの上で寂しそうにしている合い鍵をじっと見つめる。


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あれは いつの日だったか


俺がヒナを家まで送った時のこと。


『ヒナ これやるよ』


『なぁに…?』


『いいから 早く手出せよ』


『はい。出したよ』


『返品不可能だからな』


もっと長い時間、ヒナに 一緒にいて欲しくて渡した。


『えっ いいの?』


『なにが?』


『あたしね、毎日 行っちゃうかも!』


『クスッ 来たきゃ来ればいいじゃん』


なんて言っておきながら、喜んでいたのは俺の方だった。