「琴音のために書いた」
「本当……?」
「最後だから」
「え……? どういう意味」
「終わりにしよう。さよならを言いにきたんだ」


歌手になりたいって言った時、母さんが一番喜んでくれた。
その母は本当の親じゃなかった。
しかも実の母に殺された。

「誰のために歌えばいいのか、わからなくなった。犯人が見つかったら、きっとオレはまた歌いたくなるって思ってた」

犯人が捕まって事件が解決したら、もとの自分に戻れると思っていた。

「心の中に扉があって、開け方がわからない」
「倖太」
「気持ちの整理がつかないんだ。オレの存在がアヤさんを苦しめて、母さんを死なせた。アヤさんも。オレは生まれてきちゃいけなかった」

現実はどうだ、傷ついただけだ。

「実の母親が育ての母を連れてった。こんな結末なら知りたくなかった」