「ガラスの靴なんて気づかなかった」
「美香さんのバッグは回収したのにか」
「回収したのにはアヤさんです。……倖太と話すことはできませんか」
「今は無理だ」

私は倖太のこと好きです、と突然、松本が言い出した。

「倖太はアヤさんに似てます。ふんわりしてて世間知らずで。アヤさんともっと仲良くやってくれればと思ったんですが」
「……君は、元マネージャーだろう。水原アヤに、恋愛感情があったのかい」
「……彼女は、出会った時から、人妻でした。好きでしたけど」
「好きなだけなら罪じゃない」
「罪だったんです」
「?」
「アヤさんが愛していたのは、私でも旦那さんでもなかった。倖太でもなかった。立花美香だけでした。振り向いてもくれなかった。美香さんが死んで、アヤさんの心は死んでしまいました」

「自首する気にはならなかったのか」
「はい。妹が芸能活動を始めたので」
「バッグは」
「墓に隠そうと言い出したのは旦那さんです。私はアヤさんが反対しなかったので従いました」


「愛してたんです」
「……ひとつ聞いていいか。指輪を見なかったか」
「知りません。でも想像はつきます」

「もし見つかったら、指輪はアヤさんのものにはならない。倖太の元に行くことになる。それが我慢ならなかったんでしょう」

「美香さんの墓に入れなかったのは、自分のものにしたかったから。愛の証が倖太の手に渡るのはどうしても嫌だったんでしょう」
「その指輪はどこにある」
「知りません」