これらの会話はすべてレコーダーに録音しておいた。
それを提出すると、鏡原は、待っていた倖太と僕を昼食に連れて出した。

「父さんを逃がしたのは、僕の責任です」
「……自分の意思で逃がしたのか」と鏡原。
「……本当の親子じゃなかったとしても、育ててくれました。その場で警察に連絡する気にはどうしてもなれませんでした。それに映画の主役が決まったんです」

映画が決まったから。
僕は家族より倖太より、自分の保身を考えた。

「倖太が僕なら、きっと同じことをしたよ」
「なら、オレの立場になって考えてみて。犯人を知ってて逃がした、オレがどれだけ怒ってるかわかるよな」
「……」
「仕方ない、お前のことを許しても、水原さん夫婦を許せるかは別問題だ」

鏡原は何も言わない。
倖太はゆっくり「オレはオレの正義に従う」と言った。
「大きな善ってやつかい」
「そうだよ。オレにとってもお前にとっても。一番大事なものって命なんじゃないか」
「……」
「罪は償えるけど、命は戻らない。母さんたちは逝ってしまった」

晴れた冬空の向こう。


僕は返事ができずにうつむいた。
倖太を失うかもしれない、その覚悟はまだできていない。

事件が解決したら、君も行ってしまうの?

「琴音。母さんたちにどんな事情があったかはわからない。オレちにできることをしよう。いいな?」