高校生だった倖太は、外見と裏腹に礼儀正しかった。

「あの子はアヤが泣いている間、ずっと優しくて親切にしてくれた。誠実な子だ。アヤは美香さんを奪ってしまったと何度も言おうと思った」

優しくて親切で、何も知らなかった倖太。

「言い出せなかったんだろう。美香さんが育てていた倖太くんだ、話し方もしぐさも、よく似ていた」

「アヤは自殺をしようとしていた。何度も後を追おうとしていた。でも一人になってしまった倖太くんを見て放っておけなくなったんだ」
「……」
「身勝手な言い分なのはわかっている、でも、倖太くんは、死のうとしていたアヤを救ってくれたんだ」

「じゃあ、恩人じゃないか。彼のために全部話してよ警察に!」
「お前はどうなる! お前を美香さんに負けない役者に育てることが母さんの望みだった、彼女の気持ちはどうなる」
「倖太の気持ちはどうなる!」

「琴音、黙っていてくれ。お前が黙っていてくれれば、すべて丸く収まるんだ」
「……母親を、母さんに殺されたのに? 僕には黙っていろっていうの?」
「……」
「よく考えるよ。どうしたらいいのか」