そういえば、手首切ってなかった?

「仮病」
「ええっ!?」
「病院も金払って個室を借りただけ。面会謝絶の札もひっくり返しただけ」




するすると倖太は包帯を解いた。

その手首にはほんの小さな切り傷だけがあった。

「オレは女優の息子なんだから」

なん……だと!?

「あの血は!?」
「撮影用。チョコの匂いで、本物の血の匂いなんてしなかっただろ」
「あっ……!」

そういうことか。


騙された。

「お前も隠し事してたからおあいこ」

ショックを隠しきれない僕を抱き寄せて、倖太は笑った。

「琴音が無事ならそれでいい。今度こそ腹を割って話してくれるよな。お兄ちゃんに」