年末の歌番組が始まる前に琴音がやってきた。
年越し蕎麦を食べさせて、風呂に入れる。
一年の汚れを落として初詣に行くんだと、昔、母に言われた。
思い出せば、彼女は華やかな職業とは裏腹な、古風なひとだった。

歌番組と、アイドル事務所のカウントダウンを適当にチャンネルを切り替えて観る。

「倖太はドームで歌ったことあるんだよね」
「オレ、実は紅白にも出たことあるんだよね」
「ええっ!?」
「詳しくはWebで」

さあ、初詣に行こう。
近所の小さな神社にも大勢の初詣客が押し寄せている。

琴音は寒がりなのか、マフラーをきつめに巻いて、しっかり手袋もしている。

参拝して、映画の成功を絵馬に書く。
「倖太の願い事は書かないの?」
「別の機会に書くよ」

琴音はもっと幸せになるべきだ。
母さんたちのかわりに。

お前は弟なんだよと言ってしまいたい。
どんな事情があったかなんて、もうどうだっていいんだ。

幸せな秘密。
息が詰まりそう。

「願いごとならあるよ」

事件が解決して、それから。