二人で泊まるには広過ぎる部屋にはベッドが二つとソファ。
一泊するだけなのに、4人掛けのガラステーブル、浴室にもバラの花がたくさん飾られている。
むせかえるような甘い香り。なんて種類だろう。

「辛かっただろ。お疲れ様」

戸惑うばかりで役に立たない父と、的外れに倖太を責める妹たち、人目をはばからずに号泣する松本の前で、僕は泣けなかった。

線香と供花の香りにうんざりしていた。

甘いバラの香りに、どれだけ癒されたかわからない。
わざわざ部屋を取ってくれた倖太の優しさにやっと気づいた。



「おいで」


倖太の腕に抱きしめられて、僕は、やっと母のために泣くことができた。