再び弔問客が静まり返る。
焼香をすますと、倖太は一度頭を下げて、すぐに出て行った。

「待って!」

「琴音、今日は帰るよ。あとでメールする」
「そうじゃない……。母さんは君にひどいことを」
「そうだね。傷ついた」
「……」
「……でも、お前のせいじゃない。それに相方の息子のオレが送ってあげなきゃ。アヤさんが母さんに会えるように」





出たよ、いい子ちゃん発言。





「こう、」
「アヤさんがオレのことを嫌いでも、アヤさんがオレの母さんを好きでいることは自由だろ」
「そうかもしれないけど」
「愛することを止める権利は誰にもない。オレにもアヤさんにも」

そうかもしれないけど。
どういう風に育ったら、そんなに優しくなれるんだい?

それじゃまた連絡する、と言って、倖太は手を振って車に乗り込んだ。

夜の暗闇に僕を一人残して。