翌日、指定されたスタジオに出向くと、スーツを着た倖太が待っていた。
見慣れたはずのスーツ姿なのに、胸が締め付けられた。
会いたくてたまらなかったはずなのに、どうしてだろう。

「滅びの街レベル7の七海晶役だ」
「えっ、僕、一回落ちてる、ムリだよ!」
「バカ、チャンスじゃないか、そんなこと言ってる場合じゃない」

台詞が書かれた紙と、洋楽のCD。覚える時間は30分。

「いいか、七海晶は天才だのカリスマだの言われる歌手だ。裏の顔は暗殺者。下手でもいい、堂々としてろ」
「わ、わかった……」
「七海晶はクールな仕事人なんだ。ふりだけでもいい、落ち着いて。お前が挑戦する役は、お前より仕事ができるアーティストなんだ」
「アーティスト……」
「天才には違いない。だけどな、影で努力をしているから、彼は落ち着いていられるんだ」
「……」
「努力ならお前も負けてない。レッスンにちゃんと行ってるの、オレは知ってる」

ちゃんと見てくれてたんだ。

「……わかった。ありがとう、倖太」
「飲み込めたみたいだな。行って来い」