「もうひとついいですか」
「はい?」
「19年前、立花美香さんが結婚された後は、何をされてましたか」
「……は?」

「大事なことです。実はあなたに隠し子がいるというお話を聞きましてね」
「隠し子も何も、それが美香の事件に、なにか関係あるんですか?」
「関係があるかはわかりません。悪戯かもしれないのでお聞きしているだけです」


「美香が突然結婚したことはショックでした」
「話をされなかったんですか」
「話し合う時間がなかったんです。美香は一時休業して、私も1年ほどはなにもしていませんでした」
「何も?」
「ええ。美香の結婚がショックで。家で映画を見たり、旅行に行ったりしてました。
仕事もしていませんでしたし、子供も産んでません」
「もうひとつよろしいですか。美香さんが倖太くんを出産された際、故郷に戻ったりしていましたか?」
「いいえ? 美香は都内で出産しましたから」

間髪いれず、アヤは答えた。
19年前の話を、一瞬の迷いも答えられるものだろうか。

「ねえ刑事さん。私が美香を殺したと思っているんですか?」
「まさか。被害者に近い方々にお話を聞いているだけです」
「美香は私の親友でした。こう度々、警察にこられるのは心外です」


帰れ、とドアを開けられる。

今日はこれ以上何も聞けそうもない。
また来ますと、手帳を閉じて、引き下がることにした。