「悪いわね、こんな早くに」
「仕事ですから。台本持ちましたか? あと、お弁当作ってきたんで、新幹線で食べてください」
「あら、ありがとう」

『女教師探偵』シリーズの京都編の撮影らしい。
琴音にもシリーズ物があればいいのに。

「撮影が終わったら、営業に連れていくわね。琴音の仕事を取ってもらわないと」
「はい」
「倖太くん、あなた自身も売り込まなきゃ。そのために連れていくのよ」
「はい」
「今日は、琴音の予定がないはずだから、事務所に戻ったら原稿のチェックお願いね」

雑誌に載る場合、一応原稿に目を通すことになっている。
小さな事務所なので、スケジュール調整や、新幹線や飛行機の手配などこういう仕事は今まで彼女がこなしていた。
女優としても自分の仕事もあるのに。
メールのチェックからオーディション用の写真のチェック、することは山ほどある。

オレは、子役から歌手になった頃は、なにも知らなかった。
ちょっとドラマに出て、歌を歌うだけで良かった。

「アヤさんは、マネージャーつけないんですか?」
「前はいたんたけどね。面倒になっちゃったから、いいのよ」
「そうですか」
「琴音の仕事を増やさないとね。今のままじゃ、倖太くんも仕事ないし、退屈でしょう」
「退屈は罪、ですか」
「……そうね。よく美香が言ってたわ」