予定より10分早くもえはそこにきた。

目の前のホテルはピンクなオーラ全開で、あからさまだった。

まさかとは思っていたがそのまさか。
最悪の事態が起きた時の心の準備もできていた。

時間まであと五分。

1分が長い。

緊張する。

現実を受け止めなければならない自分と、現実逃避したがる自分。

握ったての中が汗ばんで行くのがわかった。

それは約束の時間の3分前。
突然の出来事だった。

目の前の自動ドアが開いた。

信じられない、信じたくない事実と、身を切るような心の痛み。

確かにそこに新はいた。

今までに見たことのない笑顔。
けいこが許せなかった。

もえは自分を止められなかった。
渾身の力で殴り飛ばした。
3人の間で数秒の間無音の時間があった。

あんた人の男に何?なんで手をだすの?なおきは?

語る自分を止められない。

殴り飛ばされ地べたに座っている女に向かって暴言を飛ばす自分。

おい。

新の怒号が虚空をきる。
いい加減にしろと、もえを突き飛ばしけいこに手を差し伸べた。

大丈夫?立てるか?

新の手を借りて立ち上がったけいこは、甲高い声で暴言を吐き始めた。

あんた、そのない胸で新と何ができるの?
新はそんなもの求めてないだの、なおきはただのサイフで本命は新だって言ってた。

何も聞こえない。
耳に入ってきた音を脳が解釈しない。

目の前が黒くなったり白くなったりした。

貧血を酷くした感じだった。

しかしその暴言ラッシュも

おい。

の一言で終わった。
その声は新のものではなかった。

なおき。
なおきがいた。

ずっと話を聴いていたらしい。

その後のことは覚えていない…。