そんな私のつぶやきに、

「ん?なんて?」

綺麗な顔をニコヤカにして近付けてきた。

―――ゼッタイ、聞こえてたはずだ、このわざとらしい顔は。

そう思い、

「何でもナイデス」

プイッ、と顔を背けてみた。

すると、私の視界の外になった児玉くんのほうから、微かにふきだすのが聞こえた。

―――やっぱり、心にもないこと言ってるんじゃないか。

私に対して可愛い、なんてのはあり得ない言葉だとわかっていても、からかわれたということが面白くない。

「ったく、これが児玉くんじゃなくて井ノ上とかだったら、拳で殴ってるよ」

そう言ってチラリと見ると。

児玉くんの顔がかたまった。

「……殴られたい訳じゃないけど、アイツに仲の良さが負けたような気がして嫌だな」

井ノ上の名前が出たのが面白くないのかそう言ったあと、微妙な表情になる。

その表情をみて、少しやり返したような気持ちになったので、心の中でザマーマロ、と呟いてから、

「そう言えば、今日はありがとうね。最初、写真の話が出たとき、まわりにバレないようにフォトショとかでも加工できるって誤魔化そうとしてくれたでしょ」

と、お礼を言った。

「あのままの話で流せれば、井ノ上のこともかばえたのに……。結局井ノ上が公開しちゃったけど……でもサンキュ」

ペコリと頭を下げた。

児玉くんは私のセリフに一瞬とまどったみたいだが、

「……やっぱり、各務さん、優しいね」

と先程よりも複雑そうな顔をした。

「??どうして??」

私が問うと。

児玉くんは微笑んだまま、答えなかった。

そして、児玉くんか降りる駅に来てしまって。

「じゃあ、ね」

また私の頭をぽんぽんとしてから降りていった。

残された私は電車が出発してからもその意味を考えていたけど、やっぱり意味がわからなくて。





「………俺は、自分のわがままで、各務さんを縛りつけてるのが申し訳ないんだよ」



降りた電車を見ながら、児玉くんがそう呟いていたなんて、もちろん知るわけなかった――――。