人差し指で落とした煙草の灰がボロリと落ちてそれが風に紛れて消える。目を細めながら自分を見据える逢坂の表情に、沙樹は自分の胸の中で燻っている不定形なものをどう言葉にしようかと躊躇いつつ告げた。


「ルミは……クスリに手を出しているかもしれません」


 手のひらがじっとりと汗ばんで風が吹くとヒヤリとする。沙樹がそう言うと、逢坂が先日渡したレコーダーを沙樹に投げ渡した。


「答え合わせしてみな」


 沙樹がそれを受け取り、イヤホンを耳にあてがおうとしたその時だった。


「もう一度言う、どんな事実を目の前にしても逃げるなよ」


「……はい、わかりました」


 沙樹はゆっくり頷くと、イヤホンをして再生を押した―――。


『ねぇねぇ、隆治ったらぁ』


 もう二度と聞きたくないと思っていたルミの甘ったるい声に、沙樹はうんざりしながら目を閉じて会話に全神経を集中した。


『あぁ、わかったよ。ったく、ルミはほんと欲張りだな、この間渡したばっかりだろ。思い切り飛べるドラッグをさ』


「っ!?」


 聞き間違いであって欲しい。


 そう願いながら沙樹は何度も何度も里浦の会話を巻き戻しては聞き直した。


 ―――思い切り飛べるドラッグをさ。


(ドラッグ……って、う、嘘……だよね?)


 鈍器のようなもので頭を殴られたような感覚に、沙樹の頬からは自然と涙が伝っていた。


「……どう、して……」


 ルミの様子がおかしいのはきっとストレスのせいかもしれないと、沙樹は気に留めていなかった。しかし、異様なまでの落ち着きのなさは沙樹の中で徐々に確信に変わっていった。


「普段は服用してるなんてわからないくらいまともだからな、相手がお前だったから気が緩んだのかもしれない……」


「逢坂さん……」


 すくっと立ち上がって逢坂の前に立つと、沙樹は残酷な現実に胸を射抜かれた痛みに涙が止まらなかった。


「神山ルミはおそらく薬物を乱用している。まだ証拠がないからどうすることもできないが―――」


「ルミにクスリを渡してるのは里浦ですね?」


 沙樹の涙に濡れた瞳に、逢坂が言葉を呑んだ。その瞳の奥には揺るぎない決意を灯した焔が揺れていた。


「私、里浦を張ります」


「だめだ」


「どうしてですか!?」