新垣の写真は案外身近な小さな出来事を撮ったものが多い。けれど、沙樹はそんな新垣の写真が好きだった。


「私、新垣君の撮った写真好きだな。人が目もくれないようなところに注目するって、なかなか観察力がある人じゃないとできないことだもの。その社長さんだって、辛い過去を乗り越えての笑顔だったんでしょ? それって本当の社長さんの姿なんじゃないかな」


「そうなんですかねぇ……」


「うん、だって写真は絶対に嘘をつかないもの、きっといい写真なんだと思う」


 沙樹が励ますようににっこり笑うと、新垣は頬を紅潮させながら目を輝かせた。


「ほ、ほんとですか!? 倉野さんにそう言ってもらえると励みになります! オレも倉野さんが書いた記事は必ず目を通してますよ、あ、これって倉野さんが書いた記事だなってわかるんです」


 爛々とした新垣の瞳がこそばゆくて、沙樹は咄嗟に目を逸らしてしまった。


「そういえば、波多野さんから聞きましたよ。今度、神山ルミと里浦隆治のスクープ狙うんでしょ?」


「え? う、うん」


 急に話題が変わって、沙樹は逸した視線を新垣に戻した。


「ほんとはオレ、倉野さんには……芸能ネタとかスキャンダルっぽいのどうかなって、あっ! 変な誤解しないでくださいね? オレちゃんと応援してますし」


 新垣の言う“誤解”とは何をさしているのだろうかと、沙樹は胸につっかかりを覚えた。


「マスコミみたい?」


「え……?」


 新垣は敢えて言葉にしなかったことを沙樹に看破され、言葉を失った。


「私、マスコミとは違う仕事してるって思ってる。自分の伝えたいことに理念を加えることがジャーナリストだと思うの」


「倉野さん……」


「でも、仕事は選べない……だから波多野さんから依頼を受けたら前向きになんでもやってみたいって思うの、自分の経験にもなるし」



 たとえ親友がターゲットだとしても―――。