沙樹はなんとなく逢坂が自分の父親のことを知っているのではないかと思っていた。展示会に行った時、父親の遺作になにか目で語りかけているような逢坂の姿が胸に残っていた。


「あぁ、ガキの頃から何もなかった俺に、唯一写真を教えてくれた人だったからな、スタジオの仕事も学生の時に手伝ったりしてた。先生に娘がいるっていうのは知ってたけど、それがまさかお前だったなんてな」


 ドクンドクンと心臓が波打っている。生活感のない逢坂の部屋に漂う静けさが耳に痛い。


「前に写真の展示会で会ったあの高宮って男を覚えてるか? あいつもスタジオで何回か顔を見たことがある。向こうは俺のこと忘れてたみたいだけどな」


 沙樹は逢坂透という謎の塊に触れたくて、けれど触れたらその闇に呑み込まれてしまいそうで怖かった。


(私、どうしてこんなにドキドキしてるのに、胸が痛いの……? 逢坂さんを見ていると、泣きたくなる)


 煙草の火種を灰皿に押し付けて、髪の毛を書き上げると逢坂が低い声で口を開いた。


「……お前、神山ルミの逮捕について記事書けるか?」


「え……?」


 沙樹は一瞬逢坂の言わんとしていることが理解できなかった。


(逢坂さん……心配してくれてるのかな)


 親友のことについて書かなければならない辛さを逢坂は懸念しているのだとわかると、じんわりと温かなものを感じた。


「逢坂さん、大丈夫です。真実から目を逸らしちゃいけないって、逢坂さんが教えてくれたんですよ? 自分で見聞きしたものをみんなに伝えるのが私の今できることなんです。一人でも、ペンさえあれば戦えます」


 その時―――。