「旦那はお馬鹿です。白良から逃げてきたら、痛い思いして俺が投げ飛ばされた意味ないですよ~!」

昨夜からずっと千尾丸の愚痴が続いている。

昨日の晩は村から少し離れた木の上で過ごした二人。

千尾丸は狐の姿に戻り、白良の傍に行けとうるさい。

「戻ってどうする。何を言うのだ…」

「謝るんです。投げ飛ばしてごめんなさい。襲ってごめんなさい」

白露は大きな溜息を吐き出した。

「投げ飛ばしたのは千尾丸だけだ。それに、襲ってなどおらぬ」

「なら、逃げ出してごめんなさい」


何を思ったのか、しばし考える白露。


「…千尾丸、そなたは今日も白良の父親を探せ」


「良いですが…旦那はどうするんです?」

この質問に、彼は何も答えず歩き出した。

「だ、旦那?村に戻るんですかい?」

「………」

「おっ、やっぱり白良が気になるんですね~。謝るなら土下座が一番効果ありやすよ~」

「うるさい」

ニヤニヤと笑う茶色い狐を蹴飛ばして、被衣を纏った白露は村へと向かった。