『…そういえば、私って一度もあだ名、付けられたこと、ないんだ。』
足立君のニックネームの話から派生したのか、私はふっとそんなことを口にしていた。
『…ほら、私って、た、か、や、と、お、こ、で姓も名も呼びやすいでしょう?
全部あかさたな、と、おこそとの、でできるんだよ。
そもそもあだ名なんかつけられるような性格じゃないし、』
あぁ、なんで私、こんなこと話してんだろう。
心なしか淋しそうな声になってるよ、自分っ!
そう、小学生の頃から姐御肌だったりツッコミ役だったりであだ名なんてつけられる筈もなく、
でもそれが、小さなコンプレックスでもあったんだ。
幼稚園の頃、みんな○ぴーとか○っち、○っちゃんとかって呼び合うのに、
私だけは、とーこちゃん、だった。
ほんとうに、ただの一度も他の名前で呼ばれなかった。
姐御肌だった私は、正反対の女の子っぽいものに憧れて、
でもみんなの目があるから出来なくて、かわいい呼び方にただ憧れてた。
でも今は自然と落ち着いて、自分でもおしとやかなほうだと思う。
いや、地味なだけか。
それでかえってつけられなくって、もうそんなの気にしなくなって、
でもやっぱり憧れとほんのちょっとの淋しさは拭えず残っていた。
そんなことまでは言わないけど、やっぱり、淋しそうに見えたのかな。
「じゃあ、俺がつける!」
小枝君だった。
何故か電子辞書を取り出して調べ始めた。
私は、嬉しくって、どきどきしながらそわそわと視線を逸らして、待っていた。

