その日の部活の前、ぼんやり更衣室で着替えていると、小枝君の声が脳裏に蘇った。
【しゃーるん、ミステリアスだし、】
ミステリアス…
小説に出てくるミステリアスなキャラには憧れるし、言われてみればそう見える一面もあるかもしれない。
でも、それはなんだか距離を置かれたようだな、と思ってしまう。
思えば、ニックネームだってそうだ。
"ミステリアス"な私を呼び捨てにしにくくて、さん付けするほどでもなくて、っていう葛藤があったからなのかも。
そういえば、小枝君に名前を呼ばれた覚えがほとんどない。
私があんなに嬉しかったニックネームは、あの人にとっては2人の距離なのかもしれないな、と視線を落とした。
翌朝、金曜日。
「おっ!しゃーるん様、おはよ!」
悪戯っぽく笑った小枝君に、ついつい頬が弛む。
『おはよ。』
「俺、覚えてたろ?!」
自慢げにえっへん、と胸を張る小枝君に、私はそうだね、と微笑んだ。
『でも、"様"って、』
私が呆れて笑うと小枝君はいいのいいのっ、と笑う。
それから、小枝君は私のことをしゃーるん様、と呼ぶ。
もちろん、小枝君だけが。

