ふっと唇が解放されて、
ゆっくり瞼を開けると、
下を向いている凪くんが見えた。
ふわふわっとした黒髪、
長めの前髪を揺らして顔を上げると、
私からネクタイを外して、自分の首にくるっと巻いた。
そして手慣れた手つきで、ネクタイを結び、
バッグを肩にかけて立ち上がった。
「ちゃんと勉強しろよ、じゃあな」
そう言って、座っている私の頭に大きな手のひらをぽんとのせた。
寂しい......
凪くんは、ため息をつきながら首を傾げて笑った。
「そんな顔すんな」
私の前髪をくしゃくしゃっとしてから、頭から手を離した。
「......じゃあな」
凪くんは庭から出て行ってしまった。
くしゃくしゃになった前髪を引っ張った。
凪くんはもっと一緒にいたいって思ってくれないのかな……
私はもっと一緒にいたい。
でも、受験が……
やっぱり我慢しなくちゃ。
膝の上にのせられた制服の細いりぼんを持つと、
ゆっくりと立ち上がった。
絶対に合格する。
合格したら凪くんともっと一緒にいられる。
とにかく今は、勉強頑張らなくちゃ。
「うん」と、自分に頷いてから居間に入り、窓の鍵を閉めて自分の部屋に向かった。