凪くんは、座ったままゆっくりと振り向いた。



その時、私の足元に転がってきたペットボトルの蓋を手渡しした時のことを思いだした。





肩をぽんと優しく叩かれて、隣のお母さんを見ると、


お母さんは優しく微笑んでいた。


「先、帰っているわね」


お母さんは、ふふっと笑って、凪くんに軽く会釈をすると、

凪くんは立ち上がって、お母さんに頭を下げた。





私は凪くんの元に、ゆっくりと近づいた。




「くるみ」



凪くんは少し首を傾げて私の顔を覗き込んだ。



「ごめんな。話しかけんなって言われたのに」



私は、大きくぶんぶんと首を振った。





「今日中学の卒業式だって、潤平から聞いて......


卒業おめでとう」




「ありがとう.......」



凪くんを見つめながら言うと、凪くんは一度下を向いて、


また顔を上げた。





「高校、受かったんだって?」


「うん」



「よかったな。頑張ってたもんな」





凪くんは、私の頭に手を伸ばして、


そのまま私の頭を触らずに、また下に手を下した。




「それだけ、言いたかった。


もう、高校では声かけないから。



安心しな。



じゃあ......な」





凪くんは向きを変えて、高校の方へと歩き出そうとしたから、



私は凪くんのブレザーの袖を掴んだ。




凪くんは、少し驚いた顔で振り向いた。





「橋まで、一緒に帰って.......ほしい」