鬼上司?と嘘恋から始めるスイートラブ

「佐伯!!お前は何度言えばわかるんだ!!」


始業時間、五分後に経理課に響き渡る怒号。昨日の請求書作成で計算ミスをしてしまった私。しかもこの計算ミスは初めてではない。やっぱり計算は苦手。



「すみません」


目の前で私を怒鳴りつける時田悠貴課長は鬼上司。時田課長の威圧感で辞めて行った人間も少なくはない。ただでさえ、苦手な仕事を私なりに頑張っているというのに、褒められることはなく、怒鳴られる毎日。

私は、怒鳴られて伸びるタイプじゃないし、お昼休みに琴美と談笑する時間がなければ、確実に辞めている。

それに仕事ができないのは私だけのせいじゃない。私はゆっくりと時間をかけてでも、ミスをしないようにしたいのに、あの鬼上司が悪い。


「終業のチャイムが鳴ったぞ。十分以内に全員、部署から出て帰ること」


鬼上司の、繁忙期以外は残業をしないというポリシー。残業代の節約なのかなんなのか知らないけれど、多部署が残業に追われていても我関せず。

終業のチャイムが鳴ると同時に、部署から人を追い出すため、仕事にはスピードを求められる。当然、スピードを重視すれば、私みたいな苦手な人間は、ミスが多くなってしまう。それなのに、あの鬼上司は容赦なく怒鳴りつける。


そんな矛盾に耐えられない人間が後を絶たず、アルバイト経験を生かして商品開発部や営業部を希望していたはずの私は、人手不足の経理課に放り込まれた。