「この子はね、小野瀬 慧太。いない3人のうちの1人よ。慧太、この子は綾塚 夏海ちゃん。今日転校してきたの」

「ふーん」


慧太くんはピアノのふたを閉めると、こっちに向かって歩いてきた。

一歩一歩、近づいてくるたびに、なんかくらくらしてくる…。


慧太くんは私の前に立つと、首を傾げた。


「明希の仲間?」

「へっ?」


仲間?って…


「ち、違うよ! 私はれっきとした女よ!」

「あら失礼ね、なっちゃん。アタシだってそこらへんの女には負けないわよ?」


そ、それはそうかもしれないけど!!


すると慧太くんは大きな目をますます大きくした。


「へぇ~! よくここに来ようと思ったねぇ。ま、ここは男だらけだし、男好きにはもってこいだ」

「はい!? 私別に、男好きってわけでは」

「ま、なんでもいいや。じゃ、僕は先に教室行くね」


私に興味はありません。とでも言いたげな口調でそう言い、慧太くんは音楽室を出ていった。


明希ちゃんはため息をつき、ぽかんとする私に申し訳なさそうに言った。


「ごめんね、なっちゃん。でも、慧太も悪い子じゃないのよ」

「う、うん…」


あの美少年から吐かれる毒…。


恐怖だ。



「ま、ともかく。あと1人を見つけるだけね。あ、なっちゃん。ここは見ての通り、音楽室よ。でもまぁ、授業は週1だし吹奏楽部もないし、ほぼ誰も使ってないわ。慧太がたまに弾きに来るくらいかしら」

と、明希ちゃんは説明してくれた。


「これで全部説明したかしらね?」

「あ、ねえ。聞きたいことあるんだけど、いい?」

「なあに?」

「ここの学校って、屋上入れるの? 前の学校は入れなかったからさ」


明希ちゃんは笑った。


「それは今から向かうわ。そこにサボり魔のバカがいるから」