深夜23時、ファミレス。

こんな時間でもほぼ満席。
おそらく近隣の大学に通う学生達の溜まり場となっているのであろう店内は、予想外に混み合っていて、各々がゆったりとした時間を過ごしていた。

店内の比較的奥まった喫煙席、遅めの夕食とドリンクバーのグラスが置かれたテーブルに田宮麻帆と高校時代の女友達が座っていた。


「え」


「んでさー!サトルがさー!」

隣の席で最近注目され始めた男性アイドルの名前がやけに耳につく。


「 」


対して目の前の友人が言っている言葉がまったく読み込めない。


「 」


日本語としては耳に入るのに、それはただの音でしかなく、意味がまったく分からない。
いや、意味を読み取ろうとする脳の働きが止まってしまったかのようで。


「シゲルシンダンダッテ」



「shigerushindandatte」



「しげるしんだんだって」



「しげる、しんだ、んだって」




「しげる、しんだんだって」



“茂”



不意に浮かんだ名前、顔、声、温もり……一度全てが繋がると溢れたかのように記憶が浮かんできて、言いようのない感情が広がり、膨らみ、弾けて消えて行った。



「麻帆」



心配そうに見つめてくる友人の顔を見て、急に現実世界に意識が戻り、自分の頬を流れるものに気がついた。



「麻帆、大丈夫?」



紗季の顔は予想外の事態に動揺して目が泳いでいる。
あぁ、私にとっての茂と、周囲から見た私と茂の関係はこんなにも違うのかと、妙に冷静に考える自分がいることに、なんだか笑えるような気がしてきた。


神永茂


私の高校時代を占めていた後輩で、たった3ヶ月だけれども付き合っていた相手。


またどこかでと。

昔漠然と約束したことが約束で終わった瞬間だった。