この愛に抱かれて

夏の暑さを名残惜しむように蜩は盛んに鳴いていた。


吹き抜ける風が生暖かく、じっとしているだけでも汗がにじんでくる残暑厳しい8月の終わり、牧村響子の周りは慌しくなっていた。


両親が亡くなったことで一人ぼっちになってしまった響子は、母恵美子の両親に引き取られる予定だった。


だが、裁判で加藤直樹の有罪が判明したことで、事態は一変した。


加藤家側が響子に対して高額な慰謝料を払うのではないかという噂が親族の間に広まっていたからだ。


響子を引き取れば、大金を手にすることが出来る。


響子の争奪戦が始まっていた。