この愛に抱かれて

1ヶ月後、直樹は退院の日を迎えた。


病室には母親の節と妹の遥が姿を見せた。

節と遥は着物姿だった。


2人が着物をきることは、それほど珍しいことではなかった。


節の実家は日本舞踊の家元をしていた。


そのため普段から着物で過ごすことが多く、遥も子供の頃から着物に慣れ親しんでいた。


この日は、節が薄緑色の絽江戸小紋、遥が水色の紗紬を着ていた。


夏らしい、涼しげな装いだ。


節は椅子に腰掛けると扇子を開いて直樹を扇いだ。


病院の中は冷房の温度が高めになっていたので少しばかり蒸し暑かった。