平成18年 10月


日本海から吹きつける冷たい北風を全身に受けながら、牧村響子はひとり断崖の上に立ち尽くしていた。


荒々しい波は大きなうねりとなって、幾重にも重なりながら海岸沿いに打ち付けている。


ところどころに隆起した黒い堆積岩に打ち寄せた波は、けたたましい轟音とともに空中に舞い散っては消えた。


水平線を覆い隠すように広がった薄い雲のベールの中に、オレンジ色をした太陽は静かにその姿を隠していく。


あたりは次第に夕闇に包まれていった。



もう生きる望みなど無いのか



響子は心の中でそっと呟いた。