「あっ。見つけた!探したよ?」







ひょっこり顔を出す玲奈。







「ど、どうしたの?」








目の前には、涙をこらえて立ちすくむ戸塚さん。






怒りで戸塚さんを睨みつけるレイ。







2人の間に立ち、レイの唇にハンカチを当てている真由。








この複雑な状況を、うまく理解できていない様子の玲奈。








3人を確認するように目で追う。








「おい、見送りの時間だぞ?」







だるそうに玲奈の後ろから現れたリョウ。








3人の中の張り詰めた空気が一気にプツンと切れた。








「わぁぁぁぁ・・・」








リョウの顔を見て高ぶってた気持ちが弾けたのか、戸塚さんは泣きながらリョウの胸に飛び込んでいった。








「お、おい・・・弥生・・・」








全く状況が理解できていないリョウは、胸にすがりつく戸塚さんを戸惑った顔で見ている。









そんな戸塚さんの行動が、レイの怒りを倍増させたのか、目の前にいる真由をそっと横に追いやった。




   



   このままだと、イケナイ!!!



   



   レイが戸塚さんを殴ってしまうかも・・・







「レイ、だめ!」








咄嗟にレイの腕を掴もうとしたが、するりとすり抜け、手を握ってしまった。







手を握られた感触に驚いて、真由の方を見るレイ。








「お願い、何もしないで・・・」








必死に頼む真由をじっと見て、レイはフッと笑った。








そして、握った手で真由を引き寄せ、耳元で、








「今の顔、すっげー良かったよ」







小さな声で囁かれた。








思わず顔がポーッと赤くなる。




   



   何よ、こんな状況で、何考えてんのよ!!







目の前で繰り広げられる、レイと真由の親しげなやり取りを見て、リョウの目が怪しく曇る。







「おい、レイ!どういうことだ??」








この普通じゃない状況がやっと分かってきたのか、リョウのドスの効いた声が空間に響いた。








「その、クソ女に聞けばいいだろう?人の顔に傷をつけやがって!!」







「レイ!!」






思わず叫んでしまった。








このままだと、兄弟喧嘩に発展する危険がある。






それだけは避けたい。








無意識にレイの手をギュッと握っていた。








それを感じ取ったのか、レイは「ふ~」と深いため息をつき、真由の手を両手で握り返す。








「心配するな、何もしねーよ」








ちょっとだけ、安心した。









戸塚さんもようやく落ち着きを取り戻してきたのか、しがみついていたリョウから少し離れる。









「ごめん、リョウ・・・私がいけないの。レイ君をブってしまったから・・・」








「それに、もう時間でしょ?みんな先に行ってて・・・」








か細い声で、精一杯冷静に話す戸塚さんが、ちょっとだけ可哀相に思える。



   



   叩いてしまった後に後悔するのは、私も同じだったから・・・








近くで呆然としていた玲奈が、戸塚さんの肩を優しく抱き、さりげなくリョウから遠ざけた。







「私が、こっち見ているから、2人とも行ってよ、時間ないわよ」







   確かに時間がない。



   代表2人が出て来ないとなると大問題だから。







レイは、たぶん落ち着いている。







「真由、行くぞ」







「はい。」







先に歩き出したリョウの後ろ姿は、かなり不機嫌な様子。



   


   無理もないか・・・






「まだ、血が滲んでいるからこれで抑えていてね」






持っていたハンカチをレイに渡すと、真由も急いでリョウの後を追いかけた。