家を出るのは夕方の予定だったので、少しぼんやりと過ごしていた。

ベランダから見える空は夏よりもずっと高いところにあった。

空がとても遠くて、とても青かった。




部屋の中を見渡す。

小さな部屋の中に吹き込む風は、まだ少しだけ夏の匂いが残っている。

乾燥した風の中に夏の残り香を見つける度に少しだけ嬉しくなる。




あの夏の終わり。

櫻井さんは結局、私の返事を聞き入れてはくれなかった。


でも、次の日からも櫻井さんは何ひとつ前の日と態度を変えることはなかった。

そしてそれは、私にとってとても有り難いことだった。



私が一番楽な方法をいつも先回りさせてしまう。

その優しさが嬉しくもあり、切なくもあった。



仕事の忙しさの中に二人の感情を置き去りにしてきた。

でもそれは、ただの逃げのような気がしてならなかった。




それに決着をつけるためにも私は一人で出掛けるのだ。

まだ少し気温は高いけれど綺麗な景色が見られるだろう。

海も山も。

きっと、私の気持ちを落ち着けてくれるはずだ。




切なくも、恋しい場所。