頭の中は仕事モードでフル回転だった。

櫻井さんのように臨機応変に、なんてことを一人で出来る自信はない。

けれど、会社から離れていても自分に出来ることはある。



仕事に同行するのも、大切なことだけれど。

ご飯を一緒に食べることは、相手をよく知る上で必要なことのような気がする。




『あの…、いいんですか?自分で連絡しておいて、って感じはありますが…。せっかくのお休みなのに、夜まで付き合ってもらって』


「何言ってるの。御堂さんにお話を聞いたのなら、私がいた方がいいでしょう?気にしないで。大丈夫だから」




そう言うとほっとしたように、実はすごい助かりました、と篠木は言った。

一人でクライアントとお食事をするのは、緊張することだろう。

まだまだ篠木には可愛そうだな、と思って少し笑ってしまった。




『あと、部長が櫻井さんも連れて行けって言ってるので、二人で行きますね』


「え?」


『廣瀬さんと高校時代の同級生だとかで。仲がいいみたいなんです』




篠木はさらっと凄いことを言う。

私は固まってしまって、何も言えなかった。

少しの間、沈黙が受話器に流れる。




『時雨さん?どうかしました?』




篠木の言葉にはっとして、ううん、と気の抜けた返事をする。



この場所で、櫻井さんに逢ったら。

私は何を想うんだろう。