「俺の母親の話を湊は黙って聞いてくれた。湊のお父さんは悪くない、って。優しい人だから、自分のことを見捨てられなかっただけなんだ、って。泣きながら何度も謝る母親に、湊は驚くほど優しかった」




何を想っていたのか。

もう知る術がないことが、こんなにも辛い。




「湊は母さんに聞いたんだ。例え一緒にいることが出来なくても、自分の父親との子供が出来て幸せでしたか、って」




どこかで聞いたことのある台詞。

湊がママに問いかけた台詞と一緒。




「そしたら母さんにっこり笑ったんだ。幸せでたまらなかった、と。もう一度同じように廻り逢って同じ状況になっても、きっと同じ選択をする、って。それくらい愛してた、と」




心から望まれて、圭都さんは生まれてきた。

圭都さんのお母さんの一言は、それを物語っていた。




「湊は笑ってた。それなら誰も不幸じゃない、と」




誰も、不幸じゃない。




「母親を見捨てられなかった親父も、結ばれないとわかっていた母親も、生まれてきた俺も。全て自分で選んだ道だから不幸なわけではない、って」