「じゃあ、そろそろ出ましょうか。お迎えも来たことだしね」




そう言って、そそくさと水鳥さんは帰る準備を始めた。

すばやい身のこなしであっという間に身支度を整える水鳥さん。


伝票を持って立ち上がり、会計に向かって歩き始めてしまった。



私はといえば、その背中を追うのに必死で、コートも手に持ったままだった。

急いで背中を追おうとすると、ぐいと腕を引かれた。




「櫻井さ――――」
「圭都」




ムスッとしながらも、強い口調でそう言った。

櫻井さんに引き止められて、水鳥さんは手早く会計を済ませているのが見えた。




「あの、早く行かないと。圭都さん、離して」


「風邪引いたらどうする?これから忙しくなるのに。ちゃんと上着を着ろ」


「でも・・・」


「水鳥さんはちゃんと待っててくれるよ。そういう人だろう?」




そう言われて小さく頷く。

なんだか小さい子供になった気分だった。



さりげなく私の鞄を持ってくれる櫻井さん。

空いた手できちんと上着を羽織る。

確かに、もう上着なしでは寒くなっていた。



櫻井さんの言うことを素直に聞いている。

とても、不思議な感じだった。



こうしてゆっくりとこの人と時間を重ねていくのかも、と。

そんな穏やかな気持ちで店を後にした。