「簡単に甘えられるようになるなら、とっくにしてますよ・・・」




ちょっと拗ねるようにそう告げる。

私が最も不得意とするもの。

それが『甘える』だ。




『甘える』事と『縋る』事。

似ているけれど違う、と今はわかっている。


それでも、ちょっと前の私にとってそれはイコールだったので、まだ気が引ける。




「櫻井君、きっと寂しく思ってるわよ。そんなに頼りないか、って」




水鳥さんが言うんだから、そう感じているのは間違いないだろう。

頼りないなんて、思ったことは一度もない。

むしろ、頼りになり過ぎて困っている。



際限なく、甘えてしまいそうで。




「頼りないなんて、思ってないです。ただ、甘えるの苦手なんです・・・」




小さな声で下を向いていた。

水鳥さんはそんな私の頭をぽん、と優しく撫でてくれた。

その綺麗な手は、とても安心する温度だった。




「無理に甘えることはないわ。でも、想っていることは伝えてあげないと可哀相ね。櫻井君、知らないんでしょ?シグがこんなに頼りにしてること」




こくん、と小さく頷く。

なんだかいたたまれなくて、お猪口をくいっ、と飲み干した。