季節は巡る。

春から夏へ。



ブライダルフェアで成功を収め、着々と社会人としての階段を上っていた。

頼りにされること。

それが時雨を大きく変えていった。




そんな中、想い出す。

唯一、時雨の心に残る人物のことを。




湊のことを。

七歳年上の義理の兄。

初めての人のことを。



寂しかった心を埋めてくれる家族と、かけがえのない大切な人を両方手に入れていた。




初めて恋を教えてくれた。

初めてを沢山くれた。

初めて本当に欲しいと想った。




だから、雨が降るたびにその人の言葉を想い出す。




もうひとつ。

湊を想い出させる人がいる。




その声に。

その腕の強さに。

その睫毛の長い目に。

櫻井さんの、その背中に。




知っている人を重ねては切なさが増す。

櫻井さんの想いが自分に向いていることを。

はっきりと知ってしまったから。




寂しさを埋める方法を、櫻井さんは与えてくれようとしている。

それに縋ることが、どれだけ櫻井さんを苦しめるのかも知っている。



けれど、どうしてこんなにも拒めないのだろう。