「いいえ。何もせずぼんやりしていたので。恥ずかしいところを見られてしまったな、とは思いますけど」
一人でベンチに座って携帯の画面を見つめる姿は、とても滑稽だっただろうな、と思う。
そんなところを誰かに見られるなんて思いもしなかったので、完全に気を抜いてしまっていた。
「考え事ですか?後姿がなんだか寂しそうでしたよ」
考えていることを見抜かれそうで、少し怖くなった。
この人は、人の弱いところを見抜く力が鋭いのだろう、と感じていた。
会話の節々に見える若干の冷たさが、私を緊張させた。
目線を軽く下に落とす。
廣瀬さんの方は向けずにいた。
「そうですね。のんびり考えるのは、久しぶりだったので」
軽く流す物言いをして、そう言った。
言った言葉は嘘ではない。
けれど、核心にも触れていない。
左側から感じる気配は、じっと私を見ている気がした。
「話し相手には、役不足ですか?」
そっとかけられた言葉に優しさが含まれていた。
役不足どころか本音を暴かれそうで怖い、と感じていることに、気付かれなければいいと思った。
「そんなことはないです。でも、自分で考えなくてはいけないことだと、想っているんです」
口から出ることは、いつもシンプルで、いつも少し嘘を含んでいる。
やっぱり言葉は無力だ、と想った。

