「あんまり、見ないで下さい。腫れてるの結構恥ずかしいんですから」


「そうか」




くすぐったそうに会話をしながら、私に触れることをやめない。

櫻井さんがこんなにも近くにいることに、緊張よりも安心感を感じてしまった。




きっと、簡単にこの距離を崩してしまうことも出来たはず。

けれど、櫻井さんはしなかった。


何ひとつ。




この歳になって、本当に一緒に寝るだけでいい、と言ってくれる人はとても少なくなった気がする。

どちらかに好意があればあるほど。


一緒に寝る、と言うことは、そういうことだ。



ただ昨日の私が放った言葉に、その意味は含まれていなかった。

純粋に傍にいて欲しい、と想った。

そして、それが誰でもよかったわけではない。



櫻井さんに、傍にいて欲しいと想った。




「櫻井さんこそ、目が真っ赤ですよ?・・・って、私のせいですよね。すみません」




自分で言って、自分で気付いてしまった。

私がしたことは、きっと櫻井さんにとって辛いことだったに違いない。


結局、相手を苦しめることしか出来ないのだな、と感じてしまった。




「そうじゃない」




そう、きっぱりと櫻井さんは言った。

そうじゃないんだ、と繰り返して。