やっと離してくれた時、私はすっかりまどろんでいた。

湊のキスは、思考回路を壊す効果があるんじゃないか、と真剣に想っていた。




「ダメだよ。ここは病院なんだし、湊は入院してるんだよ?」


「でも、時雨は此処にいるよ」




どうしてダメなの、と目で私に言ってくる。

そんな顔をされたら、これ以上強く言うことが出来なくなってしまうのを、湊は誰より知っていた。


けれど、その顔を見ないように顔を逸らした。



見続けたら負けてしまうのは、目に見えていたからだ。




「わかった。僕からはもうしない」




ほっと、胸をなでおろす。

ただでさえ無理を言って病室にいるのだから、あまり下手なことは出来ないな、と考えていた。




「時雨がしてくれるまで、ずっとしない」


「なっ・・・!?」




大きな目を開けて驚く私を尻目に、にっこりと笑顔を浮かべていた。

楽しいことを見つけた、と言わんばかりの表情だった。




「だって、時雨がダメって言ったんだ。我慢出来るよね?」




ダメとは言ったけれど、ずっとなんて言っていない。

病室でするのが、って言う意味だったのに、そんなことはお構いなしだ。




「それに、目を逸らされて傷付かないとでも想ってるの?酷いよね」




責めるような言葉に湊の目をじっと見つめる。

さっきまでの楽しんでいた顔が、切なそうに歪んでいた。