頭の上にひんやりとした感覚が広がる。
とても安心する。
優しく髪の隙間に通る指。
その指、全部で。
その手の優しさで。
大切にされている、とわかる。
「・・・時雨」
懐かしい声。
もう遠い昔に聞いたようなその声。
湊の声。
理解した瞬間、ばっと目が覚める。
そして、その声の方へ顔を向けた。
驚いた顔をして目を見開いている湊を見て、どうしようもなく泣けてきた。
「心配を、かけたみたいだね」
その声に首を振ることしか出来なかった。
涙がぽろぽろと溢れるのを、なんとか左手を伸ばして拾ってくれた。
届かない左手に、悔しそうな顔をしながら。
「おいで」
そう言って右手でそっと私の頬に触れる。
たまらなくなって、湊に抱きついていた。
声もあげられず、ただ嗚咽ばかりが漏れる。
目を覚ましたばかりなのか、まだ上手く力が入らないのか、ぎこちなく右手で私を抱える湊。
その手の力でさえ、いとしい。
こんなにも、嬉しい。
「・・・よかった」
他に言葉なんて要らなかった。
それだけで十分だった。
そっと、私の頬に湊が唇を寄せる。
にっこりと笑顔を湊に向けて、今度は私が湊に唇を寄せる。
もう一度、見つめ合う。
どちらからともなくしたキスは、涙で少し冷たかった。