「時雨っ!!!」
「お、とう・・・さん・・・」
口にした途端、込みあがる気持ち悪さに耐えられなくなって俯いた。
呼吸することさえままならない。
視界まで暗い。
私を抱き上げようとお父さんの手が伸びてきた。
触れられた瞬間、湊ではないその感覚に思わず突き飛ばしていた。
真っ青な顔のまま逃げ出した私を、力ずくで持ち上げる。
必死に抵抗しながら、それでも遠い昔の記憶が全力で抵抗することを拒んだ。
「落ち着け。今、楽になるから」
聴きなれた声に、少しだけ身を委ねる。
それでも、私の細胞が。
どこかで、違う、と叫んでいた。
「・・・いやぁっ。ここに、みなとの・・・そば・・・」
必死に首を振っていた。
離れたくない。
やっと安心できたのに。
やっと感情が湧いたのに。
逢えたのに。
「大丈夫。どこにも行かないから」
その声が耳に残る。
やっと、お父さんの声だと身体が認識した。
一気に身体を預けて、備え付けのユニットバスに連れて行かれる。
もう、抵抗することさえ出来ない。
この不快感を何とかして欲しかった。
湧き上がるものを、残さず吐き出したかった。
恐怖も。
絶望も。
不安も。
何もかも。

