「優一!」



僕を呼ぶお兄ちゃんの声が、遅れて聞こえてきた。


女の人の悲鳴も、電車の出る音も、消えていた音がお兄ちゃんのその声を合図にしたように、津波のように一気に流れ込む。


混雑する音の中で、僕だけ別の世界に飛ばされたような気がした。



「大丈夫か?」



その声に、僕はハッとした。


その声はアスファルトに腰を抜かしていた僕の体を助け起こしてくれた。


お兄ちゃんの友達の涼くんだった。



「……お兄ちゃんは?」



涼くんは下を向いたまま、何も答えてはくれない。



「ねえ、お兄ちゃんは?」



じっとしてらず、数m先に止まっているトラックの元へ走りだそうとする僕の腕を、涼くんが掴んだ。



「見ないほうがいい」

「放して!」



僕は涼くんの腕を振り払って、トラックの方へ駆ける。



その先には、血だらけになって倒れたお兄ちゃんがいた。
ひざが、崩れ落ちる。 必死に泣き叫びながら僕はお兄ちゃんの体を揺さぶった。



ねぇ起きてよ、目を開けて



手が血だらけになろうが、そんな事はどうでもよかった。



「お兄ちゃん!」



いつもみたいに僕の名前を呼んでよ




死んじゃ嫌だよ