夢を見た。



遠い昔、大好きだった人の夢



お兄ちゃんの夢。



横断歩道の向こう側にはお兄ちゃんがいて、幼い僕は繰り返し「お兄ちゃん」と呼び続けるのだ。



その信号が永遠に赤いままだと知っていながらも、僕は渡ってしまう。



近づいつくるタイヤの音も、高いブレーキの音だって気にせずに、僕は渡る。



気付いたお兄ちゃんが振り返り、大声で僕の名前を呼ぶ。



ああ、やっと気付いてくれたと僕は満面の笑みを浮かべる。



そんな残酷な夢を、僕は見た。




遠くで聞こえた救急車の音に、目を覚ます。
見慣れた白い天井が、視界をうめた。


目をこすりながら、ベットから上半身を起こす。 しばらく、壁を見ながらぼーっとしていた。



「……嫌な夢」



再びベットに体をほうり出し、天井に向かいつぶやいた。


時計を見ると、夕方の五時をさしていた。

今日は春休み、最後の日だ。




重々しく体を起こして、僕は一階へ下りた。 誰もいない、暗くて先の見えないリビングにボタン一つで明かりが灯る。


お父さんが帰ってくるまでは、まだ時間がある。夕飯の買い物ついでに、お兄ちゃんに花を買いに行こう。


財布を持って、玄関へ向かった。
靴を履きながら、隣に飾ってあったお兄ちゃんの写真に目をやる。



二ヶ月前に、お兄ちゃんは亡くなった。
まだ、18歳だった。


本当だったらお兄ちゃんは今頃、凄く頭のいい高校を卒業して、凄く頭のいい大学に入学していたはずなんだ。


そして大学を卒業したら、勉強も運動もできるお兄ちゃんは、お父さんの会社を継ぐはずだった。



だけど、お兄ちゃんは死んだ。
四年前のあの事故が原因で、つまりは僕が原因で、お兄ちゃんは死んだのだ。