始まりのチョコレート






差し出されたその手の意味を聞いて、より訳が分からなくなった。
何でこいつが、矢野くんにチョコを渡せなかったこと、知ってるんだろう。
そもそも、私が矢野くんに渡すつもりだったということも伝えてないから、知らない筈なのに、何で?
頭の中がたくさんのハテナマークで埋め尽くされる。



「な、何で、そんなこと」


「帰って捨てるだけやったら、俺がもらったほうが、マシやろ」


「でも、中谷いらないって言ったじゃん、チョコ、嫌いみたいだし」


「うるさい、ええからはよ貸せ」



痺れを切らしたように、差し出した手を上下にパタパタと揺らす。
表情はいつもと変わらない。
怖いくらいの無表情だ。

私は、仕方なく彼の言葉に折れた。
中谷なりに元気づけてくれているのだろう。
そう思えば、少し口調が上からでも、許してやろうという気になれた。

心配してくれてるなら素直にそう言えばいいのに。
ほんと、不器用なやつ。



「はい、どうぞ」



中谷の大きな手の上に、ピンク色の包みできれいにラッピングされた小さな箱を乗せる。
昨日、気合い入れて頑張ったのになぁ・・・意味なくなっちゃったけど・・・。

渡すはずじゃなかった相手の手の上にあるそれを、惜しいような、モヤモヤした気持ちで眺める。
ここで、完全に中谷の手に渡ってしまえば、もう、今年のバレンタインは終わりだ。
本当に、これでいいんだろうか・・・。



「・・・・はぁ、」


「その顔、もうやめろ」


「・・・だって、」



だってまだ、気持ちの整理がついてない。
これで、このチョコが他の誰かのものになるなら、矢野くん以外の手に渡るくらいなら、自分で捨てたほうがずっと、マシかもしれない。
って、気付いたんだ。



「・・・だって、それ、本当は矢野くんのために作ったやつだから、」